日本大使館や日本領事館という名称はよく聞くと思いますが、では大使館や領事館というのは、どういう存在なのでしょうか? 今回は、海外旅行でトラブルの時にお世話になるかもしれない大使館や領事館のお話しをしていきましょう。

大使館、領事館は何のためにある?

最初に知っておきたいのは、そもそも大使館や領事館は何のためにあるの? ということです。ちょっとお堅い話にはなりますが知識として覚えておきましょう。

外国と外交を行なう上での重要な拠点

大使館、領事館、政府代表部を総称する名称を「在外公館」といいます。そしてこの在外公館は、諸外国との外交を行なう際の重要な拠点となります。大使館、領事館、政府代表部の基本的な違いとしては、“何に対して日本政府を代表しているか?”ということです。それぞれの施設によって代表している部分や業務内容が異なり、これによって所在する場所も変わってきます。
【大使館】国に対して日本政府を代表する存在で、基本的な所在地は各国の首都。
主な業務は相手国政府との交渉と連絡、政治や経済、その他の情報収集と分析、そして日本を正しく理解してもらうための広報文化活動などで、邦人の生命と財産を保護することも重要な業務です。
【領事館】都市に対して日本政府を代表する存在で、所在地は各国の主要都市。
主な業務内容は、その地方の在留邦人の保護や通商問題の処理、政治や経済その他の情報収集と分析。広報文化活動などです。
【政府代表部】国際機関に対して日本政府を代表する存在で、所在地は国連などの国際機関。
主な業務内容は国際連合、ウィーンの国際機関、ジュネーブの国際機関と軍縮会議、OECD(経済協力開発機構)、EU(欧州連合)に対して関わります。

この3つの中で、私たち国民が海外に行ったときにお世話になるのが大使館と領事館です。政府代表部に関しては公務関連の施設なので、海外旅行などではほとんど関係がないといっていいでしょう。
各名称の英語表記は以下の通りです。
◎在外公館/ODM(Overseas Diplomatic Establishment)
◎大使館Embassy
◎領事館Consulate
◎政府代表部Permanent Mission

困ったときに在外公館でできること、できないこと

大使館や領事館などの基本的な概要の次に、ここからは私たちが海外旅行などに行って困ったときに、どういった助けを受けることができるのかを紹介します。在外公館の政府代表部は別として、大使館も領事館も、現地で困ったら対応はしてもらえます。特に緊急のトラブルなどでは、いちばん近い在外公館に行くようにしましょう。

在外公館のヘルプはあくまで手助け

大使館でも領事館でも、海外での邦人の援護や安全対策なども重要な業務なので、相談をすればできる限りのヘルプをしてくれます。ただし、各国にはそれぞれに独自の法制度があるので、邦人が関係する事故や事件に対して時にはその国の法律が適用されて、それに従って解決をする必要も出てきます。これを考えると、海外では“日本国内と同様のサービスや救援を受けられるとは限らない”ということは覚えておくことが重要です。また、在外公館の態勢や権限の制約などから、ヘルプの案件内容によっては在外公館ができることに限界が出てきます。在外公館でしてもらえることは手助けと考えて、“自分自身で問題を解決する努力も必要”ということも覚えておきましょう。

案件別できること、できないこと

■盗難、紛失
【自分でやるべきこと】盗難や紛失の被害に遭った場合、在外公館だけではなく、まずは現地の警察署で被害を報告して被害届を提出、「ポリスレポート」という受理書を受け取ることが大切です。これは、パスポートの発給申請や保険請求などで必ず必要となります。また、クレジットカードが被害に遭った場合には、速やかにカード会社に連絡して失効手続きをとることです。万が一に備えて、旅行先の「在外公館」「旅行会社、航空会社」「カード会社」「保険会社」の連絡先はメモして携帯しましょう。この時は二重の意味で、スマホに記録するだけではなく紙に書いておくと安心です。
【在外公館でできること】
※現地警察への被害届に関する助言
※家族や知人からの送金に関する助言
※パスポートの新規発行、旅券に代わる“帰国のための渡航書”の発給
【在外公館でできないこと】
※金銭の供与
※カード類の失効手続きや航空券の再発行手続き
※遺失物の捜索
※警察への被害届提出の代行
※犯罪の捜査、通訳、犯人の逮捕、取り締まり

■事件、事故
【自分でやるべきこと】海外で事件や事故に遭って万が一入院した場合などでも、自分が連絡できる状態であれば在外公館に連絡しましょう。状況を説明すればそれに合わせた対応を取ってくれます。また、身体が動かせない状態や意識不明になることも考えて、家族や知人への連絡先をメモして所持しておくことも大切です。もし事件の場合は、自分で犯人を追うなどは絶対にしないこと!
【在外公館でできること】
※事件や事故の解決方法について一緒に考える
※弁護士や通訳、医療機関の情報提供
※家族や友人への連絡の際の支援
※現地警察や保険会社への連絡に対する助言
※日本の家族などが現地に向かうためのパスポートや旅券の緊急発給の要請
※現地での治療が困難な場合の緊急移送に対する助言や支援
※万が一、死亡した場合の遺体の身元確認の支援や、家族の意向を確認して現地での荼毘、日本への移送に関する助言
※遺体(遺骨)証明の発給
【在外公館でできないこと】
※病院との交渉や医療費、移送費の負担、支払いの保証や立替え
※事件時の捜査や犯人の逮捕、取り締まり
※事故時の相手との賠償交渉

■逮捕、監禁
【自分でやるべきこと】たとえ身に覚えのないことで逮捕、監禁されてしまったとしても、へたに抵抗するようなことは絶対にしないこと。その場での説明などに留めておき、どうしても解ってもらえない場合には素直に従っておきます。そして警察当局に対して、すぐにでも在外公館に連絡するように要請しましょう。
【在外公館でできること】
※希望すれば領事が本人との面会や連絡をする
※弁護士や通訳の情報の提供
※家族などに連絡が取れない場合には本人に代わって連絡をする
※差別的、非人道的は扱いを受けている場合に関係当局に改善を求める
【在外公館でできないこと】
※釈放や減刑などの要求や特別な扱い(現地での適正な法手続きが取られている限り、特別な扱いは求められない)
※弁護士費用、保釈費用、訴訟費用の負担や貸付け、その保証
※取り調べや裁判での通訳、翻訳

■緊急事態
【自分でやるべきこと】クーデターや暴動、自然災害、戦争などに遭遇した場合、ホテルの中などで待機する際には外の状況を見るなどの行動は絶対にしないこと。窓やカーテンを閉める、明かりを消すなどでできるだけ安全な状態、場所で待つようにすることが重要です。外出中に遭遇したなら、パニックにならずに現場や群集には近づかないこと。早急に現場を離れて安全な場所に避難しましょう。安全な場所に避難できたら、家族や所属先などに無事であることの連絡しておきましょう。
また、緊急事態に備える用意として、3ヵ月以上海外に滞在する場合は現地の住所が決まったら“在留届”を提出、短期旅行では“たびレジ”に登録しておくといいでしょう。
【在外公館でできること】
※緊急事態の発生地に滞在する日本人の安否確認。
※日本人被害者がいる場合、緊急搬送時の関係機関への連絡などの必要な支援
※電話、Eメールなどの連絡網を通しての最新情報の提供
※危険情報、待避方法などについての情報提供

【在外公館でできないこと】
※待避費用の負担(ただし現金などを持っていない場合には相談可能)

■その他の事案
【在外公館でできること】
※行方不明の家族を探す場合には、現地事情にあった捜索の方法、現地警察への照会、捜索願に関する助言
※様々な相談に応じて、解決方法について一緒に考える
※弁護士や通訳に関するの情報の提供
【在外公館でできないこと】
※行方不明者の捜索活動
※私的争いの仲裁や訴訟への介入
※専門的な法律相談
※通訳や翻訳
※外国査証、滞在許可、就労許可の取得代行や口添え
※在留国の行政機関への届出代行や届出資料の翻訳