2001年、就職活動で消費者金融業界を志し、有名企業を中心にリクナビで次々にエントリーしていきました。武富士、アコム、プロミス、レイク、ニッシン、アイム…皆ロボットのような名前ですが、創業者は日本を代表する資産家であったり、外資系企業も進出してきたりと、各社こぞって利益を上げる今考えてもとても肥沃な市場であったことは間違いありませんでした。

実際に説明会で会社や会場に出向いた際、武富士は新宿の一等地に自社ビルを構え、大理石や芸術的なモニュメントが出迎える厳かな雰囲気で、当社が稼ぎ出してきた巨万の富を誇示するような威厳を漂わせている立派な建物でした。そのビルの最上階が研修室になっており大学の講堂のようにどの席についても教壇が平等に見える中心を段階的に半円形の配置にしたそれでした。当社がいかに教育に力を入れているかというのも一目でわかりました。

私達学生は集団で参加していたので当然、社員の係の方に案内されて席へ着くのですが、気分は囚人が刑務官に移送され一切逆らえない圧倒的な立場の違いを感じました。初めて接するリアルな社会人で、日本有数の大企業の精鋭である彼らに対しとても超えられない厚い壁が立ちふさがっているようで学生風情の自分の極めて小さい立場を実感しました。
ただ、それと同時に憧れてはいたものの、海のものとも山のものとも実体がわからなかったエリートサラリーマンである本人達を目の前にして空想上の動物ユニコーンにやっと巡り会えたような武者震いのような緊張と興奮があったのを覚えています。

これが武富士の幹部か、きっと高い年収をもらってバリバリと仕事ができる敏腕ビジネスマンに違いない、俺も彼らのようになれるだろうか、僅かな確率だが採用され同僚として共に働き、多くを学ばせてもらい苦楽を分かち合える関係になれたらどんなに幸せだろうか。彼らと対面したそのわずかな時間で妄想に似た切なる思いを馳せていました。普段の学生気分とは一変した空気に触れたことはとても新鮮で良い経験になりました。

他の消費者金融の説明会や面接でも大手町などの超一流のビジネス街に初めて訪れ、巨大な高層オフィスビルに迷いながらも他の高学歴であろうライバルの学生達と時には知り合いになって情報交換したり、面接官の話に感銘を受けて改めて井の中の蛙であることを実感したりと学生生活には少し飽き、早く社会人になってリアルな経済社会で生きていきたいと思っていた私には就職活動は新たな人生の扉が開きかけて光が溢れ出しているようなそんな新世界のような境地でした。

実は消費者金融だけではなくもちろん他の業界も受けていたのですが、第二志望として商品取引の業界、〇〇フューチャー、〇〇物産、○○貿易などの企業名が多い業界で、いかにも商社とか国際的な貿易業のような、こちらもリアル経済が感じられるような仕事と思い、興味先行でトライしていました。この業界はなぜか給料が高く、説明会でも学生が多い印象で事業内容も商品の先物取引の営業ということで、経済の勉強で聞いたことがあるあのややこしい金融取引のことかくらいに思っていました。しかし、よくわからないからこそその産業を理解したいという知的好奇心はありました。

株式取引が証券会社の仕事なら商品取引を仕事とするのが商品取引企業の仕事であるのは理解しましたが、花形で憧れていた証券業界を諦めていた私には大同小異、似た者同士で相場という同じ仕組みで扱う銘柄が株式か商品かの違いだけで同じく経済の知識が求められる、広く金融業界でもあること、消費者金融が銀行の後釜のような立ち位置なら商品取引業界も証券業界の後釜で、自分が入社できそうな手が届きそうな業界であるという印象でした。

当時の私はいずれの業界にも入社願望は強かったのですが、何せ自分に自信がなかったので上から攻めるのではなく下から、身の丈に合った規模の会社に入ってそこで興味を持って活躍できればと思っていましたので銀行・証券業界は最も興味があったものの1社も受けませんでした。

就職活動も数か月が過ぎ、周りの友人の中にもちらほら内定を獲得したという話が出てきた中でも私の就活状況に良い兆しはなく相変わらず消費者金融業界中心と多少の商品取引業界を平行して活動していました。説明会や面接も毎度、埼玉から東京へその度に出向いてはの繰り返しで全部で20社程は受けたでしょうか、就職氷河期にあたる世代でありながら決して多くない会社数でしたがそれでも進展のない膠着状態が続き、次第に心が萎えていきました。

当初銀行の下である消費者金融業界、証券会社の下である商品取引業界くらいなら何とか採用のハードルを超えられるだろうと考えての就活スタートでしたが、その甘い見立てすら実現できない自分の評価の低さも感じさせられ、多くの学生が受けるであろう就活ストレスを感じてテンションは下がり、苦悩して心が折れそうになる直前まで陥ったと思います。
消費者金融の有名大手どころは全て落ち、下部の無名な会社からも吉報は聞こえてきそうもなく、憧れの社会に出ることを夢見ていた一介の学生は、社会の厳しい現実に直面してもがき、これから自分の将来は一体どうなるのだろうとその夢は一気に暗転していきました。