学生生活は緩すぎたと書きましたが、基本的に暇な学生でした。

週の数日、それも1日の半分は学校へ行くにしても課題などは出ないので、それ以外はもちろん友人と遊んだり、バイトをしたりしていましたが、学生時代を通して無計画な日々が続いていたと思います。埼玉から東京へ通学していたので約1時間かかる電車内では読書をすることしかないので地元の図書館に通って本を借りていました。何万冊の本が無料で借りられるというのは本当に社会の公共財の代表だと思いますので感謝しかないです。何か面白そうな本はないかと物色していた私は、経済という学問に興味がなかった学生でしたが本棚の前に立つと興味がそそるのはタイトルか、ブックカバーくらいの情報でしたのでその中でひと際目立つ本がありました。それはナニワ金融道の著者である青木雄二さんが執筆している本で、あの独特なイラストとゼニ、つまりお金を題材にしたタイトルの本でした。

読んでみると著者の壮絶な経験から得たお金に対する極めて生々しい考え方が書かれていました。お金を稼ぐことの大変さやお金で笑う人、泣く人、それを得るために熱心に努力する人もいれば手っ取り早く非合法なことも行うなど、なぜ人間はこれほどまでにお金に惑わされ、森羅万象でさえをもはっきりと映し出すのかという疑問はまだ社会人になっていない私自身には壮大な関心事でした。著者自身は漫画家で成功する前はデザイン会社で中小企業経営者の経験があり、倒産も経験されています。そのビジネス人生で厳しい経験をしたことをヒントに「ナニワ金融道」やその他執筆活動で作品を生み出していましたので体験者が語るその本の内容がこれから迎えるであろう世の中の真理であり人間社会の正体を垣間見えると思いこみ、ちゃんと理解していなければ負け組になってしまうという焦燥感とともに吸収することにのめり込みました。
著者のお金に対する考え方は著作内でもしばしば登場するマルクス資本主義とか、唯物史観とか出てきてとにかく哲学的に考察するのですが、要はモノやお金のように実物が重要で、人の精神や心の存在は抽象的であまり充てにならないからいかにお金の本質を知って上手く金儲けをするかを考えなければならないと訴えています。今でいうビジネス系インフルエンサーのような存在かもしれません。

経済学部の学生で資本論も聞いたことがある程度の知識でしたが、世の中には搾取する側の資本家とされる側の労働者がいて、お金を持つ財力が人や社会を支配できる強大な力関係で成り立っているということを批判した最初の哲学者であることを青木さんの著作で知りました。学生の当時アルバイトで自分の労力と時間の対価で給料をもらっているごく当たり前のことが、それが資本主義社会の仕組みに組み込まれており自分はもはやごくちっぽけな歯車の一つに過ぎず、社会の至るところにいる資本主義のヒエラルキーの一番上の会ったこともない知りえない人たちが我々弱者から利益をかすめ取って大儲けしているのかと思うとこれもやはり経済を勉強して何とかその搾取に抗わなければならないとさらなる焦りと不安を感じていきました。
しかしマルクスのように資本家やお金持ちが憎いという感情は全く湧いてこず、むしろリスクをとって挑戦したり、世の中に貢献して経済効果をもたらしての成功は相応の対価を得るに足る立場であるから自分もそうなれたらいいなと微かな羨望を持ったのも事実です。

その本と出会ってからは、図書館に行っては同じ著者青木さんの本を読み漁り、漫画も全巻買いをし、またレンタルビデオ屋に行ってはこちらもやはり社会の縮図のようなVシネマ「ミナミの帝王」を借りては返しを繰り返す日々を日課のように送っていた学生生活でした。萬田銀次郎の名言はいくつもあるのですが、「法律は弱い者を助けるんやない、知ってる者を助けるんや」と聞いて痺れましたが、さすがに法律を勉強しようと思うことはありませんでしたので経済学路線に傾倒していきました。